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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

ところが。

それほどな自信と、自信にみちている眼を――名もなき一少女の眼が、恬として、いっこう、何のおそるるふうもなく、かえって秀吉の方が、さきにてれ惑うほど、澄まして、見つめ返してくるのであったから、秀吉が、

(これは?)

と、まごつき、

(これは、そも、何たる女童だろう)

と大いに、怖れたり、好奇心をおぼえたりしたのも、むりではない。

「おウいっ。平馬やある」

振り向いて、彼はふいに、うしろの小姓組の騎馬群へ、どなった。

列の内から、大谷平馬(後に刑部)が、はっと答え、馬首を主人のそばへすすめた。

「御用ですか」

「うム。そちの馬をかせ」

「馬を……ですか」

「降りて、この女童を、乗せてやれ。そして、犬山まで、口輪をとってやれ」

平馬は、顔を、ふくらました。

返辞をしなかった。

「平馬。なぜ答えぬ」

「嫌です」

「なに、嫌じゃ?」

「はい。戦場では、たとえ戦友のたのみでも、馬だけは、貸すはイヤだと断っても、友情には欠けぬものと、聞いております。……まして、女などに、馬をかして、自分が口輪をとってゆくなんて……私には、お叱りをこうむっても、出来ません。お断りいたします」