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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

嫌なことは嫌といい、うれしいことはうれしいといい、ともあれ、主従のあいだでも、形式にとらわれず、生命と生命の真実をもって、ぶつかり合っていたのが、秀吉とその直参たちの間がらであった。

いや、当時の、先輩と後輩とのあいだ、老いと若きとのあいだ、すべて、こうした気風だった。

で――平馬が、嫌だと、だだをコネても、それが正しい云い分をもっているので、秀吉も、

「はははは。しょむないやつじゃな」

と、笑って、敢えて、咎めず、

「戦場ゆえ、平馬めは、貸すのはイヤだという。おいっ、たれかほかに、於通に馬をかして、みずからは口輪をとって、犬山まで歩いてやるような、優雅な男はおらんか。たれでもよいぞ」

秀吉のこのことばは、殺伐なる列のなかへ、かえって、一場の和気と、笑いとを、かもし出し、やがて、

「では、それがしの馬を貸しましょう」

みずから、鞍を下りて、馬をすすめた者がある。

たれかと見ると、蒲生忠三郎氏郷。――日野ノ城主の子、二十九歳の若者だった。

「や、氏郷か。恐縮恐縮」

かれの身分にたいし、秀吉は礼をいった。

氏郷は於通をたすけて、馬の背へ押し上げ、

「これも、風流です」