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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
それを貴様は」
「じゃあ、紀伊どのまで、お願いして来ますから、お動きになってはいけませんよ」
兄を、そっと、もとの枕へ寝かせて、仙千代は、立って行った。
ほどなく、三左が来た。
顔を見るとすぐ、長可は、
「どうだ。舅どのは、あのことを、羽柴どのへ、献策したか」
「いま、人を遠ざけて。おふたりで、密談中だが」
「ではまだ、羽柴どのが、献策を容れるか、どうかは、分らないな」
「ム。わからぬ」
「もし、容れぬようだったら、すぐ、知らせてくれ。……わしは、筑前どのの足もとへしがみついても、お頼みする気だ。いいか三左」
一方――
以前の広間のほうでは、まだ人払いのまま、秀吉と勝入だけが、黙然と、対坐していた。
いま。
次部屋の境から、子息の紀伊守が、ちょっとお顔……と父をよんで、何かささやいたが、聞き終ると勝入は、またすぐ、秀吉の前にもどっていた。そして、
「岡崎へ“中入り”のこと、やれと、この場にて、御命令ねがわれぬものでおざろうか。――病床の長可までが、御諾否のほど、心配いたして、ただ今も、紀伊を通じて、伺いに来ておるような熱心さ。何とぞ、御決断を」
と、さっきからの献策を、くり返して、やまないのであった。