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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
10 第十分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页
笑って。――無造作に、
「これを見い」
と、陣羽織の襟うらから抓み出した一通と、一面の地図とを、諸将のあいだへ、投げ出して、順に見せた。
書面は、病中の森武蔵守長可が、犬山の帰りがけに、直接、秀吉へさし出した血書の嘆願書。
地図は、池田勝入が、秘計を説いて献策した――例の、岡崎表を奇襲せんとする“中入り”の山道図なのである。
「どうであろ? 勝入と武蔵守の望み出た作戦は。……忌憚なく、みなの意見も、ききたいのだ」
しばらく、たれも無言。さあ? ……と考え沈む顔ばかりである。
「妙計とぞんじます」
是となす者、半分。
「奇略は、奇功を恃むもの。運を賭けるもの。――まだ一戦も交えぬうちに、お味方八万余の運命を、一挙に、賭けるのは、いかがかと思われる」
非となす者も、また半数。
議論は、もめた。
秀吉は、その間、にやにや聞いているだけだった。余りに、問題が大きいので、衆議はまとまらず、ただ、
「御明断に、よるほかはございませぬ」
として、諸将は、夜に入って、各、持ち場持ち場の、陣地へ帰った。
「於通、木枕をかせ」
陣中の眠りには、彼も、具足を解かない。ごろりと、随時に、仮寝をとる。