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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

この龍泉寺川の長さよりも長く見える」

「あはははは。さすがは秀吉、わずかな間に、これだけの大兵を、手足のごとく、速やかにうごかして来たのは手際といえる。敵ながら、賞めておこう」

「さっきから、打ち眺めておるが、秀吉は、どの辺におろう。あの金のひさごの馬じるしの見えるあたりか」

「いやいや。おそらく、他の騎馬武者のなかに、姿を没しておるにちがいない。――鉄砲の的になるような所に、のんのんと、馬を進めておるわけはない」

「敵の士卒も、急ぎに急いで、早足だが、みな、こっちを向いて、いぶかしげな顔をしておる」

「左衛門。われらの、ここになすべきことは、秀吉をして、この龍泉寺川の道を、寸時でも、ひまどらせることにある」

「かかるのか」

「いや、敵は二万、味方は五百余人、かかったところで、ほんの一瞬、ここの川面を、赤く染めてしまうだけだ。討死は、覚悟だが、その死を、できるだけ有効にして死なねばならぬ」

「おお、さすれば、長久手にある殿の軍勢も、充分、備えをあらためて、秀吉を待つ余裕を生じるわけだの」

「そのことよ」

と、平八郎忠勝は、馬のくらをたたいて、うなずいた。

「長久手の味方に、時をかせがすため、われらは、死をもって、秀吉の足にくい下がり、すこしのひまでも、秀吉の進撃が、おくるるように励むのじゃ。