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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

と、深憂の色を示した。

氏郷は、問い返した。

「いったいあのような浮説は、どこから出たものでしょう」

「さて、それはちと、いえんがな。……ただし、こういうことはいえる。火のない所に、煙は出ぬ」

「では、何かそれに紛るるような事実があったことはあったので?」

「いや、ない。事実はまったく逆さ事じゃ。――と申すは、三介信雄卿が、去年十一月、山崎の宝寺城へ、筑前様をお訪ねなされた。その節、伊勢平定の労をおねぎらい申すとて、筑前様には、自身御接待のさしずをなされ、大そうな御歓待で、城中に四日もお引き留めなされたという」

「なるほど」

「三介様の家臣どもは、翌日御退城の予定が、二日目もその触れなく、三日目も、四日目も、信雄卿の御退出を見ぬために、さてはと、悪く邪推して、城外の下人どもまで、あらぬ臆測を口走ったものらしい」

「はははは。さては、そうした仔細でしたか。世上の説というものは、根を糺すと、おおむね、他愛ないものですな」

氏郷の眉が得心を見せると、池田勝入は、その問題をまだ語り尽していないように、

「ところが……じゃよ」

と、急いで云い足した。

「その後にまだ、一ト物議もあり、なお種々な浮説が、伊勢長島と、京大坂の間を、虚々実々、伝えられた。