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にちにちへいあん

日日平安

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页

青空文庫

八

「私は喰べずにでかけます」菅田平野はこう云ってこいそを呼びとめた、「――かなり空腹ですが、空腹のほうが放浪者らしく自然にみえるでしょう、ひとつ捨てるようなぼろ傘と、放火用の綿を頼みます、古綿でいいですから燈油を浸ませてね、燧袋は井坂さんのを借りてゆきますよ」

こいそが去ると、寺田文治が弟を呼んだ。

「おまえと関口とで守島や広瀬を呼びにいけ」と文治は云った、「――八田と島口の四人にすぐここへ来いとな、二人で分担してやるんだ」

乙三郎は「うん」といって関口を見た。関口兵次郎は頷いて元気に立ちあがった。菅田平野は袴の紐をしめ直しながら、一昨夜、藍川の柊屋で髭を剃らなければよかった、と思うのであった。

八

約半刻ののち、菅田平野は、黒藤邸の庭先に立っていた。かなり広い庭で、樹が多く、配石のもようなどもなかなか凝ったものである。躑躅に囲まれた池があり、そこでは鯉が(産卵期なのだろう)しきりにばちゃばちゃと騒いでいた。

――作法を知らぬやつだ、これでたいてい人間がわかる。

彼は心の中でそうつぶやいた。

だがそれは公平ではない、彼の姿は乞食と区別がつかなかった。縞目もわからないほど古びて継ぎだらけの垢じみた着衣、やぶれたぼろ傘、脛まではねのあがった草鞋ばきの泥足。