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にちにちへいあん

日日平安

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页

青空文庫

「誰だ」とその侍はこっちを見て、それから仰天したようにどなった、「きさまなに者だ」

「手洗いにまいりたいのだが」

「なに、手洗いだと」相手は出て来て、つかみかかりそうな勢いで叫んだ、「きさまどこから入って来た、こんな処でなにをしている、これ渡辺、渡辺はいないか」

その侍のわめき声で、向うから若侍がとんで来、(それが渡辺というのだろう)彼のことを説明した。中年の侍は納得したが、「むやみに歩きまわっては困る」と云い、若侍に手洗い場へ案内しろと命じた。

「ひどくものものしいですな」菅田平野はこう云いながら若侍の表情をぬすみ見た、「――なにか奥に秘密でもあるようじゃありませんか」

「いま客が来たのです」若侍は答えた、「――御老職がお二人、なにか御内談があるようですから、こちらです」

菅田平野が手洗いから戻るまで、その若侍は待っていて、彼を元の六帖へ伴れ戻した。食膳はそのまま置いてあり、茶を持って来るようすもない。

――たしかに、あの奥のほうになにかある。

彼はこう思った。むろん、それが直ちに陸田の存在を示すものではないかもしれない、そうだと考えるのは早合点だろうが、あの中年の侍の(仰天したような)そぶりから察すると、たしかになにかあるとみていいように思えた。