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にちにちへいあん

日日平安

山本 周五郎

「サンデー毎日臨時増刊涼風特別号」1954(昭和29)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,297 字 · 56 页

青空文庫

彼は眼を半眼にし、少し口をあけて、壁の一部をじっと見まもっていた。

「おれは盲人だ」と彼はつぶやいた。「――あの中年の侍が土蔵から出て来たとき気がついていいはずだ、そうではないか、あの手籠が食器を運ぶための物だということは、たったいまわかったのだからな」

菅田平野は手をすり合せた。さっき中庭を隔てて見た情景が、ありありと眼にうかんでくる。三棟並んだ土蔵のまん中のそれから、中年の侍が手籠を持って出て来、あとを閉めて雨の中をたち去った。その手籠はいま眼の前で見たのと同じ物のようである、正しく、中年の侍は土蔵の中へ食事を持っていったのだ。

「おれは盲人だ」と菅田平野はつぶやいた、そしてにやにやと微笑した、「――だが運の好い盲人だ、幸福な盲人といってもいいかもしれない、あとはただ一つ、……討手を出したことがわかったら、ひとつ」

その部屋には六尺の戸納があった。彼はそっとその唐紙をあけてみた、上下の段にきっちり蒲団が重ねてある。客用のではない、家士たちの使う予備のものらしい。彼は旅嚢から油綿の入っている油紙包と、燧袋とを取り出して(いつでも使えるように)旅嚢の下へ隠して置き、それからそこへ横になって、この家の動静に耳を澄ませた。