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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
そして、やっと悶掻をやめた主人を寝床に入れた隣家の者は、家内の者に別れを告げて庭におりたが、主人の怪異を見て恐れているので何人も蛇のことを口にする者はなかった。
戸外は真黒で星の光さえなかった。皆黙々として寄り添うて歩いていたが、皆の眼は云いあわしたように庭前の竹にかけた蛇の皮の方へ往った。
不意に庭の樹の枝に風の吹く音が聞えた。人びとは恐れて中には眼をつむる者もあった。風ははらはらと人びとの衣の裾を吹きかえした。
この時蛇の皮をかけてある処が急にうっすらと明るくなって、朧の月の光が射したように見えたが、やがて真紅な二条の蛇の舌のような炎がきらきらと光った。と、その光がめらめらと燃え拡がって、蛇の皮がはっきりと見える間もなく、それが全身火になってふうわりと空に浮び、雲のように飛んで篠原家の屋根に往った。人びとは其処へ衝き坐ってわなわなと顫えた。
篠原家はみるみる猛火に包まれて、空を染めて炎々と燃えあがったが、やがてその火は半ばから上が円々とした一団の火の玉となって、樽の滝の方へ飛んで往った。
篠原の主人はじめ一家の者は怪しい火のために一人も残らず焼死した。