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にほんばしふきん

日本橋附近

田山 花袋

「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页

青空文庫

六

それからそのはっきりした位置は忘れたが、通四丁目あたりの南側で、古風な格子窓をその背景にして、そこに大きな丸い盤を斜て立てて、あの濁黄色のどろ/\した漆を、長いヘラで頻りに夕日に掻き回しているもののあったことを、私は未だにはっきりと記憶している。

六

私は日本橋を渡りながら、いつも蒲原有明の詩を頭に浮べた。

朝なり、やがて濁り川

ぬるくにほえど、夜の胞を

たゆらに運ぶおぼめきに

なほも市場の並蔵の

壁にまつはる川の靄。

朝なり――やがてほのじろく

水面にうつる壁のかげ――

明りぬ、くらき水底も――

大川つたひさす潮の

力逆押すにごり水。

明治三十九年から四十年、丁度日露戦争の済んだ頃で、一時小説よりも詩歌の方が文壇を風靡したことがあったが、その頃この詩がよく文学青年の口に上ったものだった。私はその頃外国文学に読みふけって、よく注文した本の届いて来ているのを本町の勤めている所から丸善へと取りに行ったものだった。あの頃はまだ橋が今の鉄橋になっていなかった。古い古い木橋だった。『改築したら好さそうなものだ、随分ぼろ橋だ。市に金がないのかな!』こんなことを私達はよくいったものだった。