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にほんばしふきん

日本橋附近

田山 花袋

「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页

青空文庫

十

と露伴の『ひげ男』とが両々相並んで『読売』紙上に載せられるという大きな広告の絵看板が出たことを記憶している。恐らく小説を大道に広告した絵看板は、これが最初ではなかったであろうか。

私達の若い心はその時分すでにそうした新しい文学に向って夥しく波を打っていた。私はそこを通るたびにいつも何ともいえないあこがれを抱いてその絵看板の前で立ち留ったことを今でも記憶している。

十

本町の社につとめている時分、そこから通三丁目の丸善へと行くために、よくその日本橋を渡って行ったことを思い起した。それは私に取っては忘れられない記憶のひとつだった。私は昼飯の済んだあとの煙草の時間などによく出かけた。そして私はあの丸善のまだ改築されない以前の薄暗い棚の中を捜した。手や顔がほこりだらけになることをもいとわずにさがした。何ゆえなら教育書の中にフロオベルの『センチメンタル・エヂュケイション』がまぐれて入っていたり、地理書の棚の中にドストイフスキーのサイベリアを舞台にした短編集がまじって入っていたりしたからであった。私はめずらしい新刊物の外によくそこで掘出したものをした。そしてその本を抱いてにこ/\しながらもどって来た。