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にほんばしふきん
日本橋附近
田山 花袋
「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页
私は何んな日でも京橋と日本橋とを渡らない日はなかったことを思い起した。私は重い本をしょったり、又は至るところの本屋の店にこっちで入用な本を書いた帳面を持って行って見せたりなどした。それにしても遠い昔だ。今通って見て、それが同じ大通りだとは夢にも思えない。雨が降ると泥濘が波を揚げるという都会。家並が大抵土蔵造りだったので、京橋の向うの銀座の新しい煉瓦の街に比べてわるく陰気な大通。その中をあのラッパを鳴らした円太郎馬車が泥を蹴立てて走って行くという有様だった。それにしてもあの日本橋から少しこっちに来た右側に――今の黒江屋か塩瀬あたりのところに、須原屋と山城屋との二軒の大きな本屋が二、三軒間を置いて並んでいて、例の江戸時代の本の絵に出ているあの大きな四角な招牌(?)がいかにも権威ある老舗らしくそこに出されてあったものだった。それにしても何という淋しい陰気な本屋だったろう。ただ角帯をしめた番頭が二、三人そこここに、退屈そうに座っているだけで、ついぞ客など入って本を買っているのを見たことはなかった。それから比べると、あの三越の前身の越後屋の角店は大したものだった。