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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
岡本綺堂『明治劇談 ランプの下にて』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治劇談 ランプの下にて、明治演劇年表。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 页
歌舞伎座の方は何分にも無人で、舞台の上がとかく寂しく感じられた。したがって、単に興行の成績のみから打算したらば、少なくとも新富座は歌舞伎座の位地を保っていられるはずであったが、新富座には不幸にも多額の負債が附きまとっていた。連合軍と戦った独逸とおなじように、新富座は内部における経済上の苦痛から、興行上では殆んど同等の成績を収めながらも、一歩ずつその強敵に圧迫されるような悲運にかたむいて来た。
それでも新富座はあくまでも歌舞伎座に対抗して、両座殆んど同時に五月興行を開場した。新富座の方は、「皐月晴上野朝風」と「釈迦八相」と「勧進帳」と「近江源氏」という列べ方で、そのうちでも一番目の彰義隊が最も世間の噂に上った。前興行の「め組の喧嘩」に味を占めて、東京人に思い出の多い上野の彰義隊一件を脚色して上演した興行政略が再び図にあたって、新富座では上野の戦争をするという評判が開場前から市中にひろまった。勿論、座方の方でも種々の宣伝に努めたらしく、上野の宮様を福助が勤めるとか、その当時まだ現存していた下谷の湯屋の亭主を菊五郎が勤めるとか、なんとか彼とかいう噂が毎日の新聞紙上を賑わしていた。