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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
岡本綺堂『明治劇談 ランプの下にて』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治劇談 ランプの下にて、明治演劇年表。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 页
それは三月二十八日の午後六時五十分であった。これも自火ではなく、和泉町の藤堂邸から燃え出した大火のために類焼の禍に逢ったのである。市村座は元地の猿若町から移転して、去年の十一月に新築開場式をおこない、市川左団次、市川権十郎、坂東家橘などの顔ぶれで、一番目は「賤嶽七本槍」、二番目は「松田の仇討」で華々しく開場したのであったが、それから半年も経たないうちに忽ち灰になってしまったのは、鳥越座以上の悲しむべき出来事であった。
まだそればかりでなく、市村座の三月興行に左団次、家橘らの一座で、近藤重蔵と阿古屋の琴責を上演していたところが、その興行中に家橘が急病で死んだために、よんどころなく半途で閉場して更に次興行の相談中に、劇場もまた焼亡してしまったのは、劇界に取って重ねがさねの災厄といわなければならなかった。家橘は五代目菊五郎の弟で、今の羽左衛門の父である。面長の、しかも膨らみのある顔で、調子も“鳩ぽっぽ”と綽名されていたような含み声であったが、和事師をしては当代第一人と称されて、かの団菊左の三名優に次ぐべき地位を占めていた。今の羽左衛門も切られ与三郎を得意としているが、どうも父には及ばないようである。