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めいじげきだん ランプのもとにて

明治劇談 ランプの下にて

岡本 綺堂

岡本綺堂『明治劇談 ランプの下にて』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治劇談 ランプの下にて、明治演劇年表。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 页

青空文庫

ては別に何らの意見をのべる者もなかった。末松子は台詞その他について二、三の訂正意見をのべ、一体その向井将監というのは著名の人物かどうかというような質問を提出すると、作者の桜痴居士を差しおいて、かの甲子屋萬蔵がすすみ出て、向井将監は後に徳川幕府の御船手の頭領になった人で、江戸中で知らないものはないと大いに弁明を試みた。その息込みから察すると、萬蔵はこの狂言に頗る乗り気がしているのか、あるいは作者と相談の上で、執筆してもらったのであろうと思われた。

甲子屋の舌鋒が余りするどいので、末松子も沈黙してしまった。一座もやや白けかかったが、それを知らず顔に頬杖をついているのは尾崎紅葉氏一人であった。下戸の紅葉氏は酒の酔いも手伝ったのであろう。本よみの中ほどから、うとうとと居睡りをはじめて、しまいには低い鼾の声さえ洩らすようになったので、となりに坐っている高山樗牛氏は本来真面目な人だけに、あたりの人に気をかねて始終はらはらしているように見えたのは気の毒であった。

この脚本は二月二十八日から歌舞伎座で上演された。一番目は「先代萩」で、この興行には市川九蔵が久々で出勤して、仁木弾正と武田信玄をつとめることになった。