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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
岡本綺堂『明治劇談 ランプの下にて』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治劇談 ランプの下にて、明治演劇年表。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 页
かれは一面に山師であると呼ばれながらも、自分の事業を発展させるためには、実に懸命の努力を試みた。かれは芸術家ではない、純然たる事業家であった。こういう人物の習いとして、苦しい懸け引きの必要上、大仰な駄法螺を吹いたこともあった。他人に対して誠意を欠くこともあった。それを一々かぞえたら随分批難すべき点も多いらしいが、ともかくも江湖流落のボロ書生が烏合未熟の一座を率いて、殆んど東西をわきまえない東京のまん中へ打って出て、苦戦悪闘、わずかに三年、五年のあいだにその地盤をふみ固めたのは、たしかに一個の勇者と言わなければならない。その後十六年、明治四十四年十一月にこの世を去るまで、かれの生涯は実に奮闘の歴史であった。
そうは言いながらも、わたしは感情の上から川上その人を好まなかったので、従来しばしば彼に出逢う機会がありながら、努めて彼に接近することを避けていた。新聞記者招待の桟敷などへ彼が挨拶に来ることがあっても、わたしは型ばかりの会釈するに止まって、かれが如才なく話などを仕掛けても、詞すくなに応答していた。したがって、彼とわたしとは全然他人であったのであるが、彼が世を去る三年前、明治四十一年の七月、はじめて彼と正面に向かい合った。