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めいじげきだん ランプのもとにて
明治劇談 ランプの下にて
岡本 綺堂
岡本綺堂『明治劇談 ランプの下にて』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治劇談 ランプの下にて、明治演劇年表。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 页
平民的に発達した芸術とはいいながら、父より子へ、子より孫へと、何百年来養成されて来た観客は、劇場内における一種の礼儀というものをおのずからに心得ていた。鎮守の奉納相撲や野天芝居を見物するような料簡で、江戸の劇場の木戸をくぐった者は一人もなかった。その余風が江戸から東京へ伝わって、明治の初年までは残っていたので、殆んど“前代未聞の椿事”ともいうべきこの活歴芝居に対して、たといその内心では、何と感じていようとも、表面は比較的冷静の態度を維持していることが出来たのであろうと、わたしは判断している。
劇場の観客の行儀が最も悪かったのは、明治の末年から大正十年前後にわたる約二十年間であったと思う。その原因は、団菊左というような名優が殆んど同時に世を去ったので、観客はおのずから舞台の上を侮るような気味になって、ひやかし半分にわいわい騒ぎ立てるようになったのと、もう一つは、前は日露戦争、後は欧州大戦の好景気のために、今まで劇場内へ足を入れなかったような客が俄かに殖えて、それらが一杯機嫌などでむやみに騒ぎ立てるので、それがまた一種の群衆心理を醸し成して、劇場へゆけば皆騒ぐものというような悪い習慣を作ってしまったらしい。