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めいじげきだん ランプのもとにて

明治劇談 ランプの下にて

岡本 綺堂

岡本綺堂『明治劇談 ランプの下にて』。同一底本的分册已合并为一书。收入:明治劇談 ランプの下にて、明治演劇年表。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,283 字 · 329 页

青空文庫

たとい不入りの芝居とはいいながら、我々のような書生ッぽうが土間の五に陣取って、芝居を一日見物して、菓子を食い、弁当をくい、鮨を食って、その費用が一人前六十八銭とは、その時代としても決して高いものではなかった。勿論、わたしたちは麹町から久松町まで往復とも徒歩であった。

初日無代価の事、これもついでに少しく語りたい。今日でも初日半額とか三割引とかいう例をしばしば見るが、その当時はそれを通り越して、無代価ということも往々あった。前にいった千歳座などもその一例である。その代りに、何時に幕をあけるか判ったものではない。午前九時あるいは十時開場という触れ込みが午後三時になるか四時になるか、またその幕間が二時間かかるか三時間かかるか、狂言が二幕か三幕で閉場してしまうか、そんなことは一切わからない。何分にも無代価であるから苦情も言えないので、観客はおとなしく我慢していたのである。いくら無代価でも、今日の観客であったら何とか騒ぎ出すかも知れないが、その頃の人たちは至極おとなしいものであったらしい。

それにしても、無代価という触れ出しでは定めて非常な混雑であろうと、今日の人たちはおそらく想像するであろうが、実際は無代価にしろ、半値段にしろ、初日は案外にさびしいものであった。