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しょうわよねんのぶんだんのがいかん

昭和四年の文壇の概観

平林 初之輔

「新潮 第二六年第一二号」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,557 字 · 29 页

青空文庫

しかも前記二者が過去へ穿鑿の眼を向けたに対し、横光氏は現代の世界へ、勇ましく飛びこんで、それを描出しようとした点において、いっそう意味のある仕事にとりかかったと言えるだろう。しかしこの企図の結果が満足なものであったとは決していえない。彼の表現にはたしかに新鮮味がある。その点において、十一谷氏の擬古的な表現とは正に対蹠的であり、私自身の好みから言えば、横光氏の努力の方が遥かに効果的だと思う。だが氏の表現は、混沌としすぎている。氏はいつか、この混沌的表現を合理化していたが、あれは筋がとおらない。現代の社会が騒音であるからその表現もまた騒音的であるべきだという論拠だったと記憶するが、騒音の騒音たることははっきりと描出しなければならぬ。文章道における、クラルテ〔明晰〕とサムプリシテ〔簡素〕の原則はそのために決して破られない。馬鹿を最もよく表現し得るものは馬鹿ではなくて、かえって最もすぐれた天才でなければならぬ。

谷崎潤一郎、里見※(「弓+享」、第3水準1-84-22)、佐藤春夫の諸家は、なんらかの転換を画さざる限り、もはや昔日の名声を回復することは困難であろう。