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しょうわよねんのぶんだんのがいかん

昭和四年の文壇の概観

平林 初之輔

「新潮 第二六年第一二号」1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,557 字 · 29 页

青空文庫

二 全盛期を過ぎた大衆文学

それ程に精力的なことが通俗作家には必要なのだ。それ程ではないにしても、今、二三ヶ月三上於莵吉の名前が、どの新聞にも雑誌にも見えなかったとしたら、読者はきっと、「三上さんはまだ生きているだろうか」とあやしむに相違ない。

いずれにしても通俗小説は今も昔も、そして近い将来にも、ますます多数の読者を獲得してゆくだろう。

二 全盛期を過ぎた大衆文学

いわゆる大衆文学は、昨年を全盛期として、今年は少し下火に向かったような観がある。『赤穂浪士』三巻を完成し、『ごろつき船』を出し、『由井正雪』『からす組』その他その他、と引きつづき大作を発表している大仏次郎が、ひとり大衆文学界の寵を独占していた観がある。それは中里介山が完全に沈黙し、白井喬二が次第に勢力を失って、今や、大衆文学壇において、問題となりそうな作品を提供し得る作家が、ほとんど大仏氏一人になったためであろう。

もちろん、いわゆる大衆文学の作家は昨年に比べて数がへったわけではなく、作品がへったわけでもなく、読者がへったわけでもない。ただ大抵の作家が娯楽雑誌の舞台へおしやられて、リテラリー・サークルのトピックとなることをやめたということをさすのである。