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つきのまつやま

月の松山

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,451 字 · 41 页

青空文庫

小泉村へいって来てから、孝也は道場へも出るし、母屋で食事もするようになり、日々は元どおりにかえった。ただ、孝也の泰二郎に対する稽古が、これまでより熱心に、そして厳しくなるのが眼立った。また、これは誰も気づかないことであるが、桂に対する態度が変りだし、ひどくよそよそしく、冷淡になった。

――なにかわけがあるのだろう。

桂はそう思って注意していたが、どうしてもこれと思い当ることがない。それとなく訊いてみたこともあるが、孝也はろくろく返辞もしないのであった。

――桂のことを嫌いになったのかしら。

そんな疑いさえ起こってきた。恢復の望みのない病床の父と、茂庭家の将来を考えるとき、そういう疑いに長く耐えることはむつかしい。桂は辛抱できなくなって、泰二郎に相談する決心をした。

三月中旬の或る夜、――桂は泰二郎と裏庭で会った。そこには裏の山から水をひいた池があり、池畔に腰掛が二つと亭がある、二人は亭のほうでおちあった。曇った夜で気温が高く、まっ暗な茶畑で地虫の声がしていた。

泰二郎は桂の話を聞いた。彼には桂の心配がよくわからないようであった。

「そうでしょうか、私は気がつきませんでしたが」