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げつめい

月明

豊島 与志雄

「新小説」1921(大正10)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,772 字 · 34 页

青空文庫

春には松露が沢山取れるという松林の中には、所々に名もない箪が出てるきりだったが、その代りに、尾長と俗に呼ばれてる白と黒と灰と三色の美しい鳥が沢山居た。巣立ったばかりの雛が枝から枝へと危っかしく飛び移っていた。

彼はその雛の小さいのを一つ、松から揺り落して家の庭に持って来た。持っては来たが、さてどうしていいか分らなかった。

「あら、なあに?」

張りのある澄んだ俊子の声が響いたかと思うと、此度はやはり彼女の喉にかかったゆるやかな声が、

「まあ、可愛いいんですね。」

飯粒を持って来てくれてやったが、食べようともしなかった。地面に置かれるときょとんとした眼付をしてじっとしてるのに、掌に取られると小さな羽をばたばたやった。

「可哀そうですわ。助けておやりなさいな。」

「ええ。」

と答えて行こうとすると、後ろから、彼の方へ呼びかけるのでもなくまた独語でもなく、何気ない調子で、

「もう今日きりね。晩にまた海へ出てみましょうか、屹度月が綺麗ですわ。」

振り向いてみると、彼女は顔の下半分で微笑んでいた。が、じっとこちらを見てる黒目がちの眼が、変に熱く鋭く感ぜられた。

彼はやはり場を失った眼を俄に伏せて、松林の方へ馳けていった。