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あさがおぞうし

朝顔草紙

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,019 字 · 29 页

青空文庫

信太郎がきっぱりと云った。

「どうするのじゃ」「駕籠は表に来ています、直ぐに江戸へ出立致しましょう、夜道をかけて初めての夫婦旅、寒くないように支度をするのです」「では盲いの娘を」「信太郎の妻は文絵どのです、さあ」

力強く差出す手へ、文絵は涙で濡れた顔を振向けながら惹かれるように縋りついた。

「今宵唯今から、信太郎が貴女の眼になります、何ものも怖れず、しっかりとこの手を掴んでおいでなさい」「――信太郎さま」

文絵の声は歓びと感動にわなわなと顫えていた。監物も乳母も泣きながら、然しつきあげて来る悦びに顔を輝かしていた。

半刻の後である。信太郎と文絵の二人を送り出した監物が、

「これで心残りなく采女を斬って死ねる」と居間へ入って書類の始末にかかった時、家士が遽しくやって来て、

「申上げます」「何じゃ」「唯今横目役より使者にて、神尾采女殿が何者かに闇討ちをかけられ、その場で絶命と」「なに、采女が」監物は愕然として立上った。

「即刻御登城くださるようにと、御門前へお迎えが参って居ります」「よし、登城するぞ」支度を直す暇もなく、大剣を取る、

「そうか」と呻くように云った。