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むらいちばんそうけいせん

村一番早慶戦

佐々木 邦

「冨士」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,468 字 · 34 页

青空文庫

「僕は一昨日帰って来て、初めて聞いたんだ。華族さんへ行ったんだってね」

「違うよ。僕達と同じ平民だ」

「しかし然ういう評判だぜ」

「お母さんが○○子爵夫人の妹さんの配偶の姪だから、親類としては遠いけれど、義弟と同じ会社に勤めているから、極く懇意だ。式にも来てくれた」

「成程」

「令嗣も義兄も慶応出身さ。先輩だから都合がよい」

「姉さんは綺麗だから、東京へ行っても大威張りだろう」

「うむ。懇望されたんだからね。縁って奴は不思議なものだよ。義兄は去年東浜へ海水浴に来ていたんだ。姉も町の親類へ行っていたものだから、浜で顔が合ったらしい」

「見初めたって次第だね」

「先ずその辺だろう。しかし提燈と釣鐘だ。先方は百万からある」

「ふうむ」

「僕は驚いたよ」

と東金君は義兄の家庭の贅沢振りを話し始めた。

しかし僕達の交際はそれから三四年間一向変化がなかった。東金君は兎に角、僕は後の方の一両年多少努力する傾向があった。というのは東金君の直ぐ下の妹の郁子さんが成人して、僕の心を惹きつけていたのである。僕は稲荷さんの松の木の下で東金君から謎をかけられた折、一笑に附したけれど、それは中学三年生時代のことだった。