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さくらのみのじゅくするとき

桜の実の熟する時

島崎 藤村

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,569 字 · 222 页

青空文庫

丁度あの雑誌の中に現われていたものは、そのまま学校の方にも宛嵌めて見ることが出来た。こうした意気込の強い、雑駁な学問の空気の中が、捨吉の胸に浮んで来る麹町の学校だった。すべてが試みだ。そして、それがまた当時に於ける最も進んだ女の学問する場所の一つであった。およそ女性の改善と発達とに益があると思われるようなことなら、仮令いかなる時代といかなる国との産物とを問わず、それを実際の教育に試みようとしていることが想像せられた。

麹町の方まで歩いて、ある静かな町の角へ出ると、古い屋敷跡を改築したような建築物がある。その建築物の往来に接した部分は幾棟かに仕切られて、雑貨を鬻ぐ店がそこにある。角には酒屋もある。店と店の間に挾まれて硝子戸の嵌った雑誌社がある。吉本さんの雑誌はそこで発行されている。こうした町つづきの外郭の建築物は内部に隠れたものを囲繞きながら、あだかも全体の設計としての一部を形造っているように見える。二つある門の一つを潜って内側の昇降口のところへ行くと、女の小使が来て捨吉に上草履を勧めてくれる。その屋根の下に、捨吉は新参でしかも最も年少な教師としての自分を見つけたのであった。