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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

と告げた。

「追い返してしまえ」と七十郎はどなった。けれども、若い家士の困惑したようすを見ると、思い直したように頷いた。

「よし、おれが会おう、客間へとおしておけ」

若い家士はいそぎ足に、玄関へ戻っていった。

甲斐が案内されたとき、病間では医者が、新左衛門の脈をみていた。下座のほうに、家扶の鷺坂靱負がいて、甲斐に挨拶をし、甲斐のために席をはらった。甲斐はそこで診察の終るのを待った。

その座敷は書院造りの十帖で、床ノ間には書の軸が掛けてあり、香炉から煙があがっていた。窓も襖も閉めきったままで、病人の躰臭がこもっているため、必要以上に香をいているらしく、座敷いっぱいがむせるほど匂っていた。――医者が診察を終ると、新左衛門が「どのくらいもつか」と、ひどくかすれた声で、喘ぎながら訊いた。

「いや、正直に云ってもらいたい、あとどのくらいです、今夜が越せますか」

「まだお脈は、しっかりしております」と医者が云った、「御病状がゆだんのならぬ点は事実ですが、お訊ねのようなことにお答えはできません」

「それほどさし迫っているというわけか」

「私は正直に申しております」と医者は云った、「私は昨日、御病状が重大であると申しました、いまでも好転したとは申上げませんが、昨日の御容態より危険が多くなったとは思われません、このお脈のしっかりして