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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

よく理解しておいでだから、しかし父からは、お祖母さまにはなにも云わないらしい」

それはいい、祖母に心配をかけないのはいいのだ。けれども私は違う、と云って、帯刀は立ちあがった。彼は立ちあがって、館のある丘のほうをみつめながら、低い、訴えるような声で云った。

「私は男だ、年も十七になる、父は私にうちあけてくれなければならない、うちあけてくれないのは、私がたのみにならないからだろうか」

「いけませんわ帯刀さま」と宇乃が立ちあがった。宇乃は立っていって、帯刀の顔を見あげながら云った、「そんなふうにお考えになってはいけませんわ、もしもおじさまになにかあって、その必要があるときが来れば、おじさまはきっとあなたにお話しなさいますわ」

「いや、いやそうじゃあない」と。帯刀は頭を振った、「私は知っている、父は私を嫌っているのだ」

宇乃は眼をみはって彼を見た。父は私を嫌っている、という終りのその言葉は、なにげない調子であるのに切実で、絶望的な響きさえもっていた。宇乃は唾をのみ、帯刀から眼をそらした。そうかもしれない、と宇乃は思った。

甲斐は船岡へ来ても、殆んど館にいることはなかった。