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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
と甲斐が云った、「一ノ関は直参大名で三万石の領主だが、その所領は伊達本家から分けられたものだ、いまの話しはそれに似ている、あまりよく似ているので可笑しくなったのだ」
「ふん、なるほど」と云って、七十郎も笑いだした。
彼は酔いも手伝っているので、遠慮もなく大声をあげて笑い、「いかにもあのじじいらしい」と、裸の膝を叩いた。辻村又之助が、酒と肴の鉢を運んで来、七十郎は手酌で飲んだ。又之助は去り、七十郎は飲みながら続けた。
「私は云ってやりました、わが伊東家は御領内に住んで、代々の御恩がある、もし伊達家から扶持を下さるというのなら、家禄の多少によらずお受けをしよう、だが、同族の骨肉を食むわけにはまいらない、甥の知行から一粒の米でも貰うようなら、お断わり申す」
甲斐の眼が微笑し、頬に皺がよった。穏やかな、包むような微笑で、相変らずだな、と云いたげであったが、そうは云わずに、いま又之助の運んで来た、肴の鉢を見やった。
「箸をつけるがいい、船岡から持って来た鹿の肉だ」
七十郎は箸を取った。
「一ノ関の渋い顔が想像できるでしょう」と七十郎は食べながら云った、「あのくらい渋い顔はちょっと見られないでしょう、おまけに彼はまずいことを云いました、おそらく半分は探りを入れたつもりだろうが、いま伊達家中には、穏やかならぬ動揺が起こっている