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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页

青空文庫

「まあ一つ注ごう」新八はおみやに酌をした。

彼はすっかり話した。おみやにはなにも隠す必要はない、風呂屋の女にかよったこと、町方役人に追われたこと、助けられた湯島の家が、原田甲斐の隠宅だったことなど。そして、女にいれあげた金は、道場から盗んだものだということまで、残らず語った。――おみやは襦袢の袖で、眼を拭き拭き、聞いていた。彼女は自分の罪を感じ、その罪の感じに責められているようであった。

「泣くことはないよ、このほうがよかったんだ」と新八が云った、「みんなおまえのせいだって、いつか云ったことがあった、そのときおまえは、それを認めて、おれを好きだったからだって云った、本当だったんだ、あのころのおれにはわからなかったが、おまえの云ったことは本当だった、いまのおれにはそれがわかるし、たとえおまえがそうしなくとも、おれという人間はやっぱり、同じようになったろうと思う」

持って生れた性分というものは変らない。自分と同じ年ごろの塩沢丹三郎は、自分からすすんで毒見役になった。まさか毒死するようなこともないだろうが、いつ毒死してもいい、という覚悟をきめている。湯島の家で会ったとき、彼がそう覚悟している、ということを自分は感じた。