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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
――丹三郎、生きていろよ。
馬を駆りながら、甲斐はそう念じた。
即死と、吐血と、分けて書いてあったから、ことによるとまだ命はあるかもしれない。生きているなら会ってやりたかったが、「置毒」をもみ消すことのほうが大事だ。甲斐は歯をくいしばるおもいで、馬をいそがせた。
本邸の門はさしたる故障もなくとおれた。
甲斐はまっすぐに大条兵庫を訪ね、次に富塚内蔵允を訪ねた。どちらも寝所へはいっていたが、起きるのを待って会談し、それからまた門をあけさせて、宇田川橋の一ノ関邸へいった。
大条も富塚も、老女鳥羽の手紙にあったこと以外は知らなかった。三人の鬼役が毒害された、という事実だけですっかりあがってしまい、料理人や河野道円らの処置については、一ノ関の意向がまだわからないというだけであった。
兵部邸では、門を通るのにてまどった。
時刻はもう十二時に近く、兵部は一刻もまえに寝所へはいった、という返事だった。甲斐はねばった。お家の大事について話さなければならない、明朝ではおそいのである、自分が来たと取次いでくれれば、必ず面会を許されるだろう、と繰り返した。
門の番士が、二度まで玄関へゆき、さらに、出て来た取次の侍と話し、殆んど四半刻もして、ようやく門を通ることができた。