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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 页
六郎兵衛は新八をひきずってゆこうとし、おみやはそれを止めようとして、六郎兵衛にしがみついていた。
「また例の折檻だ」と島田市蔵が云った、「こうなるともう酒乱というほかはないな」
「いつもとようすが違うぞ」
野中又五郎がそう云って、かれらのほうへ近よっていった。――六郎兵衛は新八の右腕を背中へねじ曲げ、片手でその左の腕を掴み、うしろから小突きながら、廊下を道場のほうへ出ていった。
「どうしたのです」と又五郎が呼びかけた、「なにごとです、宮本がなにかしたのですか」
「来るな、来るな」と六郎兵衛がどなった、「こいつの性根を叩き直してくれるのだ、口出しをするな」
おみやが、野中さま、と云った。どうか止めて下さいまし、どうか兄を止めて下さいましと云いながら、けんめいに六郎兵衛の腕にしがみついていた。
六郎兵衛は、女めと叫び、足をあげておみやを蹴った。太腿のあたりを蹴られて、おみやは横へよろめき、又五郎が危ない、とそれを支えた。六郎兵衛は新八を小突きたて、新八は無抵抗のまま、道場へ突き出されていった。
「灯をつけろ」と六郎兵衛が叫んだ、「おきの、志保、来て道場へ灯をいれろ」