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きみつのみわく

機密の魅惑

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页

青空文庫

お邸が坂の上の小高い処にあるものですから、まるでお神輿様を見下していらっしゃるような形だったので、気の立っている若い者が怒ってしまい、そのうちに誰だか奥様は寝間着じゃないかなどというものも出てまいり、神様を高い処から寝間着で見下すとは怪しからん。引きずり落しちまえってわけで、気の早い者がヴェランダへ駈け上って奥様を引きずり降し、散々な目におあわせしたんですの。遂々お怪我までなすって、書記生さんの白石さんが馳けつけて来なかったら、どんな事になったか分りませんでしたそうでございます。皆酔っぱらって居りましたことですし、誰が下手人だか分らず、奥様はお怪我のなされ損で、それがために御評判がすっかり悪くなってしまったんでございます』

『まあ珍らしい変なお話ですね。最初からそんな事があっちゃあ、宮城野さんでなくっても怖気がさしてしまいますわね』

私は在留民がいくら酒に酔っていても総領事夫人に怪我をさせるなんて馬鹿な話はないと心では思って居りました。

『それからはもう町へはふっつりとお出ましにならなくなり、日本人の会合の席へも一切お出になりません。お顔をお出しにならないからなおいけないんで、奥様も嘸ぞお気をくさらしていらっしゃることでございましょう』