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きみつのみわく

機密の魅惑

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页

青空文庫

5

有喜子もなかったと云ったそうですから、そうすると誰か先に忍び込み、盗み去った者があったに違いありません。

已を得ない場合だったとは云え、ああいう恐しい人に係り合った以上、帰朝してもしなくっても、私の身に迫っている危険から逃がれるということは出来そうもありません。私の運命ももう定まっているような気がいたします』

白石書記生はそう云って淋しく笑いました。

5

ホテルに帰るには余り時間が遅いので、私はそのまま宮城野夫人の邸で泊りました。私にあてがわれている部屋に行くと、直ぐ、ベッドの中に入って眠ってしまいました。

何時間位眠ったでしょうか、ふと人の気配で眼を覚しました。厚い絨氈の上を静かに誰か歩いているらしいのです。絹のすれ合う音がしました。私は羽根蒲団を胸の上までずらせて、息を凝らして様子を覗っていました。目が覚めたと云っても半分眠ってでもいたのでしょう。最初盗賊でも忍び込んだのか知らと思ったのですが、よく見ると何のことはない宮城野夫人ではありませんか。恐しく背が高いように思ったのも、夫人が寝間着の裾をずるずる引きずっていたからでした。夫人は私の方へ気を配りながら、音がしないようにそろりそろりと室の隅の方へ行くのです。