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きみつのみわく

機密の魅惑

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页

青空文庫

3

『でも――、有喜子はふだん総領事館へ出入りしていたんでしょう?』

『まア、よく御存じで、奥様は表面ではそれは優しく有喜子を可愛がっていらしたそうでございますよ。でも有喜子は奥様の事を恐い方だ、恐い方だ、と申していつか私敵を打たれるワ、なんて笹屋の女将に云っていたそうでございます』

『まさかね。不評判もいいけれど殺人嫌疑までかけられちゃかなわない』

『全くでございます。馬鹿な事を申す者があって困ります』

『新聞にはあの晩、若い支那人とあの淋しい道を歩いているのを見た人があるとかいうじゃありませんか?』

『それが支那人でなくって、書記生さんの白石さんに似ていたなんて云う人もございましてね、―――新聞に出ているのとはまるで違ったことを噂して居りますよ。只今はもうどこへ参ってもこの話で持ちきりでございます。いやでございますね、こんなお話は早くおしまいにして、もっと面白い事が聞き度うございます』

3

宮城野夫人は想像していた以上に憔悴していて、まるで病人のように青い顔をしていました。私を見ると一言も云わないうちにもう涙ぐんでしまいました。

『よくいらして下さいました。ほんとによく来て下すったのねえ』