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きみつのみわく
機密の魅惑
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页
てしまいました。
それから間もなく白石さんは確かに自分が総領事から預って、金庫の中へ納っておいたはずの秘密書類が全部紛失しているのを発見したのです。そのためいま大騒ぎをしているのですが、世間へ知れると面倒なので極秘裡に取り調べているのでございます。もしこれがいよいよ公になりますと主人もこのままではすまされませんし、一大事件だというので皆青くなって居ります。
その中でも白石さんは一層煩悶していて見るも気の毒なほど弱って居ります。時間から考えますと彼と別れてほどなく有喜子は殺されたことになるのです。それだけでもいい加減気持ちの悪い処へ、金庫の扉にはさまっていた護謨のようなものをよくよく見ると、どうやら人間の指の皮らしいのです。調べた結果、有喜子の食指の内側がそげていたということなども分ってまいりました。
しかし有喜子が何のためにオッフィスに入り込み、金庫の扉に指の皮まで残して去ったのかは分りませんでした。秘密書類が紛失している処を見ると彼女が盗んだものとしか思われませんが、そんなら何故盗む必要があったのでしょう、まるで見当がつかないのです。
白石さんが怪しいじゃないか、などと云い出すものが出て、段々彼の身辺に疑惑の眼をそそがれるようになりました。