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きみつのみわく
機密の魅惑
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,394 字 · 37 页
実際あの晩の彼は疑いを受けるに充分な過失ばかりをやって居ります。大切な用件を忘れていたからとはいえ、宴会中にぬけ出してオッフィスへ入っていたというのも考えようによっては少し変です。おまけに扉をよく閉めておかなかった、だから有喜子に入られたというのですが、それも故意に扉を閉めなかったとも考えられましょう。それから白石さんにとってもう一つ最も不利なことは、有喜子を門衛が咎めたのに彼が口を利いて外へ連れ出したという点です。それ等の点から白石さんに変な疑惑がかけられているわけです。
処で本人はどうかと云うと、あの事件以来極度の神経衰弱にかかって半病人のようになっています。しかも絶えず何かに怯かされてでもいるようで、少しも落ちつきがなく、命じられた用事も忘れたり、間違えたりして、仕事がちっとも手につかないんです。オッフィスへ出ても面白くないのでしょう。それで毎日憂鬱な顔をして誰とも口を利かず、随分無茶なお酒など飲んでいるようですが、傍の者からみると、心配だし気味も悪いし、万一間違いでもあってはならないというので、近々帰朝させる手筈になって居ります。私は白石さんが有喜子に利用されたのだとは考えられますが、彼が手引きをして盗ませたとは考えられないのです。