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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
彼は、俊三のそうした様子を見ているうちに、ふと、彼の六、七歳ごろの記憶をよび起した。それは、乳母のお浜と自分との間に恭一が割りこんで、お浜の愛を奪っていると想像した結果、恭一のカバンをそっと便所になげこんだおりのことであった。彼は、そのころ恭一に対して感じたものを、俊三に対して感じはじめたのである。
それは、その時ほど狂暴なものではなかった。しかし、それだけに、胸のしんに何か食い入るような気持だった。彼はもうお芳と俊三とを見ている勇気がなくて、ひとりでに眼を恭一の方にそらした。
恭一は、いやに注意深い眼をお芳に注いでいたが、次郎の視線を自分の顔に感ずると、
「次郎ちゃん、二階に行こうや。」
と、急に立ち上った。それからお芳のうしろにまわって、
「お祖母さん、これもらっていいでしょう。」
と、茶棚の上の菓子鉢をとりあげた。お祖母さんは、ちょっといやな顔をして、
「二階に持って行くのかい。」
「ええ。いけないんですか。」
「食べたけりゃ、ここでいっしょに食べたらいいじゃないかね。」
「ここでは、おいしくないや。ねえ、次郎ちゃん。」
恭一としては、いつもに似ない言い方だった。