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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

「今日は次郎が来たから、母さんに御馳走してもらおうかな。次郎、何がいい?」

俊亮はそう言って微笑した。次郎は、また恭一の顔をのぞいた。恭一は、頬杖のまま顔をちょっと父の方に向けたが、すぐまた眼を伏せてしまった。

「牛肉の鋤焼かな。……そう、それがよかろう。みんなで、つっつけるからな。……恭一、お前、肉屋まで走って行って来ないか。」

俊亮は愉快そうにそう言って、財布から五円札を一枚とり出し、それを机の上にほうりなげた。

「どのぐらい買って来るんです?」

恭一は、急に元気らしく、五円札をつかんだ。

「食べたいだけ買って来るさ。……二斤もあればいいかな。」

恭一はすぐ部屋を出た。しかし、梯子段のところまで行くと、ふりかえって言った。

「次郎ちゃんも一緒に行かないか。」

その時、次郎は、俊亮に默って頭をなでてもらっているところだった。恭一にそう声をかけられると、彼はあわてたように、

「うん、行くよ。」

と、とん狂に答えて、急いで俊亮のそばをすりぬけた。

俊亮は微笑した。次郎はあかい顔をして、恭一のあとを追った。

二人が牛肉を買って来ると、めったに台所のことに口を出したことのない俊亮が、めずらしく、あれこれと指図してお芳に鋤焼の準備をさしていた。