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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

僕、そんな人を軽蔑するよ。お祖母さんだって、母さんだって。」

次郎は涙ぐんでいたが、

「僕、憎まれたってもう何ともないよ。……僕、これから正直になるんだい。」

恭一は、次郎の言った言葉の前後の関係が、はっきりしなくて、ちょっと考えていた。

すると次郎は、

「さようなら。」

と、だしぬけに身を引いて、自分の行く方角にさっさと足を運び出した。

恭一は、次郎が小半町もはなれるまで、突っ立って彼を見おくっていたが、やっと気がついたように、

「さようなら!」

と叫んだ。次郎もふりかえって、もう一度、

「さようなら!」

と叫び、それから急に足を早めた。

ちらほら咲き出していた菜種の花が、うす日をうけて膚寒い春風の中にそよいでいた。次郎にはいやにそれが淋しかった。二里あまりの道を、彼はうつむきがちに歩いた。そして考えるともなく昨日からのことを考えはじめた。

本田の家でのことを思うと、彼の気持はめちゃくちゃだった。夢中で牛鍋をつついた時の喜びでさえ、今はかえってにがい思い出でしかなかった。それにくらべて、大巻の家の空気は何という明るさだったろう。それは同じ人間の世界だとは思えないほどちがった世界で、誰も彼もが好意にあふれ、すべてが賑やかで、しかも力にあふれていた。