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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

一四 ふみにじられた帽子

」

「どうして。」

「だって、うちの会計はまだお祖母さんがやっているんだろう。僕、それは母さんがやるのがほんとうだと思うんだけど、仕方がないさ。」

次郎はあらためて自分の蟇口を見た。そして、その蟇口をとおして、父と母と祖母との心を、また自分自身のこれからの生活の一部を、はっきり見ることが出来たような気がした。

一四 ふみにじられた帽子

次郎が、中学校入学式で講堂にはいった時、まず第一に眼についたのは、正面右側に掲げてある、すばらしく大きな額だった。それには「進徳修業」の四字が、まるで箒の先ででも書いたように、乱暴にならんでいた。次郎は、ただその大きさと乱暴さとに驚いただけで、ちっともいい字だとは思わなかった。

(どうして、こんな乱暴な字を額になんかしてあるんだろう。)

彼は、そう思って、すぐ眼を左の方に転じた。

左正面にも、同じ大きさの額がかかっていた。しかし、それには、平仮名まじりの文章が四箇条ほど箇条書きにしてあったので、さほど大きくは見えなかった。字もていねいだった。書体は少しくずしてあったが、次郎にも読めないほどではなかった。彼は、他の新入生たちが何かこそこそ囁きあっているひまに、念入りにそれを読んでみた。