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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
恭一は心配そうに次郎の顔を見た。次郎は、しかし、ほとんど無表情な顔をして、茶の間に出て行き、お祖母さんのまえに坐って、
「さようなら、お祖母さん。」
と、ていねいにお辞儀をした。そして、脇腹に次第にあたたまって行く万年筆の感触を味わいながら、元気よくカバンを肩にかけた。
本田の家を出てからの次郎の気持は、決して不幸ではなかった。俊亮は、自転車に壜詰を結えつけて、それを押しながら家を出たが、町はずれまで来ると、次郎をいっしょにのせてペタルをふんだ。風は寒かったし、からだも窮屈だったが、次郎は、父のマントをとおして、ふっくらした肉のぬくもりを感ずることが出来た。
彼は、恭一に万年筆をもらったことを、すぐにも父に話したかったが、なぜかいつまでも言い出せなかった。大方一里あまり走ったころ彼はやっと言った。
「あのねえ、父さん、……恭ちゃんが、そっと僕に万年筆をくれたよ。」
「ふうむ――」
俊亮はえたいの知れない返事をしたきりだった。次郎もそれっきり默っていた。そして自転車の合乗りでは、どちらも相手の顔をまともにのぞいて見るわけには行かなかったのである。
それから一丁あまり走ったころ、俊亮が思い出したようにたずねた。