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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

次郎は、やはりじっと彼を見つめているだけである。

「白状せい、白状せんと、なぐるぞ。」

三つボタンは、腕組をといて、右手の拳を次郎の顔のまえにつき出した。次郎はそれでもたじろがなかった。そして、いくぶん血の気を失った唇をふるわせていたが、

「僕、何も悪いことなんかしていません。」

と、食ってかかるように言った。

「何? 悪いことしていない? じゃあ、何でこんなところに一人でいたんだ。」

「用があったからです。」

「何の用だ。それを言ってみい。」

三つボタンはにやりと笑った。

次郎には、その下品な笑いが、鉄拳以上の侮辱のように感じられた。彼は返事をする代りに、思わず手を衣嚢に突っこんで、小刀を握った。

三つボタンは、しかし、それには気がつかないで眼を柵の外に転じながら、

「言えないだろう。中学生が学校の柵の内から、道を通る女を眺めていたなんて、そりゃ自分の口から言えんのがあたりまえだ。」

衣嚢の中で小刀を握りしめていた次郎の手は、もうすっかり汗ばんでいた。

「本田、――」

と、三つボタンはいかにも訓戒するような調子になって、

「貴様の行いは全校の恥だぞ。しかも、貴様はまだ一年生じゃないか。