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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
すると門口から、背の馬鹿に高い、頭のつるつるに禿げた、真白な顎鬚のある老人がはいって来た。次郎は、一目見ると、それが母の葬式の時に来ていた人だということを、すぐ思い出した。天狗の面を思わせるような顔が、次郎の記憶に、はっきり残っていたのである。
老人は、そりかえるように背をのばして、大股に土間を歩いて行った。
次郎が、ぼんやり突っ立ってそれを見送っていると、つづいて三十あまりの年頃の女が門口をはいって来て、小走りに彼のそばをすりぬけた。彼はちらとその横顔を見たが、少しも見覚えのある顔ではなかった。色が白くて、頬がやわらかに垂れさがっているような感じの女だった。
彼は、しかし、その瞬間はっとした。そして吸いつけられるように、うしろ姿に視線をそそいだ。
「まあ、よくいらっしゃいました。さあどうぞ。父もたいへんお待ち申して居りました。」
お延があいそよく二人を迎えた。
「きょうはお延さんにお造作をかけますな。はっはっはっ。」
老人は肩をそびやかすようにして、そう言いながら、さっさと上にあがった。女の人は、上り框のところで、土間に立ったまま、何度もお延に頭をさげていたが、これも間もなく障子の向こうに消えた。