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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
02 第二部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页
しかし彼の眼は自分の足先ばかり見ていた。
「ふむ、そうだったね。先生が君らの受持になった年の夏からだったね。……ふむ。」
次郎は、正木のお祖父さんが、その頃めずらしく学校にやって来て、権田原先生と教員室で何かしきりに話しあっていたことがあったのを思い起した。
「ふむ、するともうあれから二年半になるんか、ふむ」
先生は、それから、何度も思い出したように、「ふむ」をくりかえした。次郎は、その「ふむ」を聞きながら、いまに先生が、亡くなった母や、今度の母のことを言い出しそうな気がして、妙に緊張した気分になっていた。先生は、しかし、とうとうそれには触れなかった。
「先生、合宿ってどんなことをするんですか?」
かなり沈默がつづいたあと、今度は次郎がたずねた。
「合宿か――」
と、権田原先生はちょっと言葉をきって、
「合宿は何でもないさ、いっしょに食って寝るだけだよ。」
次郎は、先生がわざとそんなふうに言っているような気がして、何か物足りなかった。
「合宿なんかより、自分の家がいいさ。」
権田原先生は、しばらくして、またぽつりとそう言った。次郎は、しかし、それも先生の本心から出た言葉でないように思って淋しかった。