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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

02 第二部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 146,773 字 · 294 页

青空文庫

次郎は何かをその頭になげつけてやりたいような衝動を感じた。また、三四年まえに、お祖母さんが自分にかくしてしまいこんでいた羊羹の折箱を、そっと盗み出して、裏の畑で存分にふみつけてやったことを思い出し、何か武者振いのようなものを全身に感じた。彼は、しかし、さすがに、もうそうした乱暴なまねをするまでに、自分を忘れることが出来なかった。それに、彼のまえには、お祖母さんのほかに恭一がいた。そのつっ伏している姿は、お祖母さんのそれとはまるでべつな意味をもって、彼の眼にうつった。それは、彼の目には神聖なもののようにさえ思えて来たのである。

彼はいきなり立ちあがって便所に行った。そして帰って来ると、すぐふとんを頭からかぶって、ねた。電燈はつけたままだったし、お祖母さんの姿勢は、便所に立つまえとはいくぶんちがっていたが、やはり二人ともつっ伏したままだった。

彼は、むろん眠れなかった。枕時計の音がいやに耳につく。何度も、もぞもぞとふとんのなかで動いては、大きなため息をつき、そのたびに、そっと二人の様子をのぞいたり、枕時計を見たりした。

十一時を三十分以上も過ぎたと思うころ、お祖母さんがやっと起きあがって、恭一にふとんを着せてやる気配がした。