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ぶけわらじ
武家草鞋
山本 周五郎
「松風の門」操書房、1948(昭和23)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,835 字 · 35 页
はじめのうちかれらが「あれはお武家だそうな」とか「どこかの浪人だとよ」などと囁くのを聞いた、こっちは別だん気にもとめずにいたのだが、しだいにようすが変ってゆき、時にはあからさまに意地の悪い態度を示す者さえでてきた。
――かれらはなにが気にいらないのだ、おれは武士という体面を捨て、できる限り対等につきあっている、いったいどこがそんなにかれらの反感を唆るのか。
まるで理由がわからないだけよけいに癇も立った。すると或る日、十時の小休みのときであったが、四半刻という休みの時間が終って、かれが仕事にかかろうとすると、人足のひとりが寝そべったままで「もうお始めですかい」と声をかけた、「……そんなに精を出しても日雇賃の割増しが出るわけじゃありませんぜ」そしてそれといっしょに四五人の者が笑いだした。伝三郎は聞かぬふりをして、そのまませっせと鍬を揮いだした。
「お武家だろうとなんだろうと」そう云う声が聞えた、「……こちとらの仲間へはいれば同じ人足だ、日雇取りなら日雇取りらしくするがいいじゃあねえか」
伝三郎は堪りかねてふり向いた。
「失礼だがそれは拙者のことか」
「お耳に入りましたかね」