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すいちゅうのきゅうでん
水中の宮殿
野村 胡堂
「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页
「あいつだッ」
健一の頭には、青白い秘書、――杉村三五郎の五分もすかさぬハイカラぶりがはっきり浮かびました、こんな山の中で、こんな洒落た靴を履く者は、あの秘書の外にあろうとは思われません。
「弱った、絵図面が無くては、あれ以上一尺(約三十糎)も掘り進むわけに行かない」
健一はすっかりしょげました。一度潜水夫の死と共に紛失して、この事業を駄目にしかけた銅板の絵図面が、折角発掘が有望になりかけたところで、又盗まれてしまったのです。
「お兄様、銅板は盗まれても、あの絵図面だけならあるワ」
燿子は不思議なことを言い出しました。
「そんな馬鹿なことがあるものか、銅板が絵図面じゃないか」
「え、その通りよ、でも、私、こんなことがあっては困ると思って、あの銅板を写真に撮っておいたの、幾枚も幾枚も」
「しめたッ、それを見せろ」
「駄目よ、フィルムのままなんですもの、こんな場所では現像も焼付も出来はしないワ」
「一関まで行って来る、フィルムを出せ」
健一はスポーツマンでした、いざとなると、寸刻も躊躇というものを知りません。
「私の写真では危いと思って、六枚も撮ったんだけれど」
燿子の手からフィルムを受取ると、健一は上着を引っかける間ももどかしく小屋の外へ飛出しました。