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すいちゅうのきゅうでん
水中の宮殿
野村 胡堂
「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页
絶体絶命――闇と水の隧道
こんな時は、内気な綾子の方が落ちつきます。しかし懐中電灯と蝋燭を持って行って、銅板の絵図面と首っ引をしたところで、咄嗟の間に宝庫への秘密の地下道は見つかりそうもありません。
絶体絶命――闇と水の隧道
「おや、水が増えないのはどうしたことでしょう」
燿子は漸く冷静になりました。あわてていさえしなければ、この少女の優れた頭は、円鋸のように難関を切り開いてくれるでしょう。
「そう言えばここへは水が来そうもないね」と健一。
「隧道の入口からは、元の通り入っているでしょう。きっとどこかへ水が抜けるんだワ」
燿子は懐中電灯を振り照らして、足元の水の中に二、三歩降りて行きました。
「お兄様、大きな岐道があってよ」
「どれどれ」
健一も綾子も水の中へ入って行きました。燿子の指さす方を見ると、恐しい勢で隧道の入口から入って来る水の大量が、広間の前で一度淀んで、右手の大きい岐道へ静かに静かに流れて行っているのです。
「行って見ようか」
もう躊躇などはしておられません。隧道を入って来る水の勢は少しも衰える様子はなく、広間の広さには限りがあるし、八百年来淀んだ空気は、三人の人間をいれて、次第次第に濁って行くのが、息苦しくなる胸にも、弱って行く蝋燭の灯にもよくわかるのです。