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すいちゅうのきゅうでん

水中の宮殿

野村 胡堂

「少女倶楽部」1934(昭和9)年6月〜8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,533 字 · 52 页

青空文庫

爺やが殺された――綾子の後悔

二、三日前には――」

正平爺やは、何やら綾子に囁きました。

「爺や、私、怖い」

「ですから、今すぐ鎌倉へいらっしゃいまし。お荷物は後からお届けしますから」

「爺やは?」

「私は此処で見張っていなきゃアなりません。私がいなくなったら、悪者共は、どんな事をやり出すか判りません」

「でも」

「お嬢様は、大事な大事な仕事を持っていらっしゃるじゃございませんか。万一の事があったら、広い世界に、誰がお父様――立花博士の恐ろしい汚名を雪ぐでしょう」

「爺や、行くワ、叱らないでね」

「誰が、お嬢様を叱るものでしょう。とんでもない」

爺やも、綾子も泣いておりました。暫くは白髪頭と断髪と、テラスの葡萄の葉蔭に、頷き合うように揺れていたのです。

爺やが殺された――綾子の後悔

綾子は名匠の刻んだ「悲しみの塑像」のような乙女でした。

父立花博士は、北上川の底から平泉館の宝庫を掘り出す事を考え出し、大勢から資金を集めて仕事に取りかかりましたが、いろいろの手違で失敗した為、大詐欺師扱にされて、未決監の中で死んでしまいました。

それは昨年の秋のこと――、後にたった一人取残された綾子は、迫害と侮辱との中に、爺やの正平を相手に淋しく暮して来たのです。